Masuk「ここが学園トラブル対策室、学園パトロール隊の秘密基地です!」
「うむ、ただの教室だな」
「はい。どの教室にするかは、朝に学園長と決めましたから。それから、勢いで言っただけで、秘密ではないですよ」
「分かってるさ。素晴らしい秘密基地だ」
俺たちは案の定、なんの成果も得られなかった。
どこかに寄ることもなく、突然現れた猫にルリアンが「猫ちゃんだ。可愛い〜」と絡みに行き、ラビッツまで「可愛いわね」と猫を猫可愛がりしていた。
明るいオレンジブラウンの地に茶色の縞模様が入った、茶トラ猫だ。ゲームでもルリアンのお友達として、たまーに姿を見せる気ままな存在だった。
ルリアンが友達を欲しがっていることは、ラビッツも知っているはずだ。やや遠慮がちではあったが、笑顔で彼女と会話していた。この世界では、ルリアンにみみっちい嫌がらせをすることはないのかもしれない。
嫌がらせといっても、リアルな虫の人形を彼女の鞄の中に忍ばせたり、危ない目に遭っているところを助けたうえでバカにするといった具合だった。リュークとすぐに仲よくなったルリアンに、文句をつけたいだけだった。リュークにたしなめられ、謝罪もかねて入隊する。
……まぁ、ルリアン自身は嫌がらせをされているという認識はなく「イタズラが大好きで、危ない時は助けてくれるし注意もしてくれる優しくてお茶目な人」だと思ってはいたが。
ここで嫌がらせすらしないとなれば、もしかしたら「悪役令嬢」という異名はつかないのかもしれない。
うん、俺だけが知る悪役令嬢になるのかもしれないな! それもいい響きだ。
でもな……ゲームでは、リュークが選択肢で「もしかして、ルリアンに嫌がらせをしていたのは……」を選ぶとラビッツルートに突入する。何もしなくてリュークと上手くいくのか? 無理なんじゃないか?
うーん。上手くいかなくて落ち込むラビッツを慰めて、俺に気持ちを向かせる作戦にするか。
「リュークさんたちはまだのようですね」
「そうだね。たぶんメンバーを集めてくると思うよ」
「うう……すみません、私が猫ちゃんに夢中になったばっかりに」
「いやいや、猫に夢中な二人を見られて眼福だったよ」
「ほえ?」
――スパーン!
……またラビッツに頭を扇子ではたかれた。
「いてーよ!」
「どうしてあんたはそんなにバカ王子なのよ」
「思ったことがつい口に出るんだよ!」
「はぁ……」
は! ラビッツとの未来のためには他の子に気があると思われたら駄目だな!
「猫にはぁはぁしている可愛いラビッツが見られて最高だったぜ! 俺も猫になってラビッツに可愛がられたいね」
「言い方ぁ!」
――スパーン!
叩きすぎだっつの!
「ふふっ、お二人とも本当に仲よしさんなんですね」
そんな羨ましそうな顔をして……。友達をずっと求めていたんだもんな。
「ルリアン嬢とも、もう仲よし気分だぜ? マブ友マブ友!」
「あ、ありがとうございます」
「あんたは調子のりすぎ。私だってその、友達になったと思っているわ」
「えへへ、嬉しいです」
……仲よくなってるな。やはりこの世界では俺だけが知る悪役令嬢になるのか、ラビッツ。
「おー、待たせたか」
ギィ、と扉を開いてリュークたちが入ってきた。この校舎だけは古臭く、音が鳴る扉が多い。普段は使われてすらいない。旧校舎で、なぜか取り壊されずにここにある。近くにある塔も同様だ。ここ以外の校舎は全て「王宮か!」と言いたくなるくらいに立派なのに。
ゲームのお陰で理由は知っているけどな。このゲームが泣きゲーと言われるゆえんだ。
泣きゲーだからこそ、冬が近づくと……。
いや、今は考えるのはよそう。
「あ。もしかして、メンバーさんを連れてきてくれたんですか?」
「おお。やっぱりニコラたちも入ったか」
「はい、即決でした!」
あれ、ラビッツが入ったことになってるな。まぁいっか。
「やっぱりな。じゃ、早速だけど紹介する」
リュークが連れてきたのは二人の女の子。一人は紺色の髪をポニーテールにしている。瞳は藍色で、人形のように表情をあまり変えない彼女の名は――、
「まずは、ベルジェ・クリストフ。ぼーっとしていたから連れてきた」
「リュークさん、誘拐は駄目ですよ〜」
「大丈夫。聞いてる。パトロール隊に入る」
ベル子、ゲーム通りにやや片言だな。
ちなみにゲームのオープニングのキャラ紹介にも使われていた彼女の印象的な台詞は「あなたは、やさしい人ですか」だ。負の感情を強く抱くと雪を降らせてしまう能力があるゆえの、初対面の時の台詞だ。
もうリュークは聞いてきたのだろう。俺たちと一緒に過ごしながら感情のコントロールを身につけようとかどうとかこうとかリュークに唆されてここにいる。
「ってわけで、誘拐じゃねーよ。ベル子って呼んでやってくれ」
「あだ名ですか! いいですね、えっと、ベル子さんっ」
「はい、ベル子です。あなたは……?」
「ルリアン・ウィービングです。ルリルリって呼んでもいいですよ」
「ルリルリ……」
「やったぁ! あだ名で呼んでくれるお友達ができました」
「ルリルリ……」
「やったぁ!」
ああ……ゲームと同じだ。見ていると、ほんわかする。
ベル子はその厄介な性質のせいで、遠い親戚のいるジャパリス国にずっと住んでいた。ベル子の「子」はそっちの名前でよく使われる。入学を機に両親のいるこの国に戻ってきて、言語もあらためて勉強中だ。
そして、ジャパリス国の言葉は日本語だ。俺は転生と同時に二カ国語を操れるようになっている。つくづくニコラの記憶を持っていて助かった。
「で、こちらがオリヴィア・キャンベル嬢。ニコラもよく知る公爵令嬢だ」
「ごきげんよう。お久しぶりですわ、ニコラ様」
「……ああ、久しぶり」
苦手なんだよな……オリヴィア。同い年で公爵令嬢だから、会う機会は何度もあった。苦手だと幼い頃に親に言って、ラビッツたちのように遊んだりする機会はほとんどなかった。
ただ、悪い子ではない。
金髪で青緑の瞳。髪は下の方だけ縦巻きロールでゴージャスな印象だ。
「私はあまりこちらには参加しませんわ。私の助けが必要な時はいつでも言ってくださいませ。お力になりますわ」
「あのっ、オリヴィア様。ルリアン・ウィービングです。参加していただいて、嬉しいです。これからよろしくお願いします!」
「ええ。ルリルリさんね」
「は、はい!」
「ふふっ、よろしくね」
「はい!」
そして、オリヴィアとラビッツが視線を交わし――。
「お元気そうでなによりね。ニコラ様と仲よくしているそうじゃない」
オリヴィアには取り巻きか何人もいるし、情報も入りやすい。俺とラビッツが一緒に昼食を食べていたのも、耳に入っているのだろう。
「それほどでもないわ」
「とてもよくお似合いよ」
「……っ」
品のないラビッツにはバカ王子がお似合いね、と暗に言ってるんだよな。
本当はそんな関係に憧れを持っていて、オリヴィアルートに入ると可愛くデレるものの……ルートに入らなければパット見、鼻持ちならない女だ。正直、デレると可愛いと分かってはいても苦手だ。
が、さすがにここは俺が和ませないと。
心の中で深呼吸してから会話に混ざる。
「まぁまぁまぁまぁ。オリヴィア嬢が入隊してくれるなんて心強いなぁ〜! 頼りたい時は頼っちゃうからよろしくな。堅苦しいことは抜きにして、同じ隊員として仲よくやろーな」
「……そうね。では、もう私は行くわ」
「はわわ、もう行ってしまうのですか」
「馴れ合うつもりはないの。でも、学園の秩序の維持はとても大切だわ。必要な時はいつでも頼ってちょうだい。ではね、ルリルリさんも頑張って」
「はい! ありがとうございます」
優雅に微笑んで、オリヴィアが立ち去ろうとするも――、
「ちょおっと待ったぁ!」
――ギィィィィ!
掛け声と扉の軋みと共に、一人の大人の男性が現れた。シルクハットをかぶりマントをつけた赤と黒の手品師みたいな格好の先生だ。黒銀の鎖に結ばれたゴツいネックレスがぶら下がっている。
この世界、建物や名前はいかにもなナーロッパではあるものの、魔法を使ったお手軽な発電システムもあって電気も存在する。服もナーロッパ風なのに異国の文化も入り込んでいて、さまざまだ。かなり前世に近い。
そして、この茶髪で茶色い瞳の顔だけは地味な先生が、学園パトロール隊の顧問だ。
「だ、誰よあなた。それにヘンテコな格好ね」
「学園パトロール隊の顧問だ。時代の最先端を走るナイスな服だろう?」
お助けキャラでもあるんだよな。
「あなたの顔は存じ上げておりませんわ。名前を名乗っていただけるかしら」
「顧問だ。名前は秘匿されている。学園長に聞いてみるといい。隠された存在、超スーパースペシャルミラクル顧問様を知っているか、と。奴は言うだろう。ついに出会ってしまったか……と!」
「……そう。もう行くわね」
「待てい! まだ学園パトロール隊結成の宣言をしていないだろう。今すぐルリルリよ、宣言するといい」
「え、あ、はい、えっと……あ! まだラビッツさんが入っていないんでした!」
やっと思い出したか、ルリアンよ。
そして、どうして皆ラビッツを見たあとに俺を見るんだ……。ゲームでは、この場にラビッツはいない。
ど、どうする。
何を言えばいいんだ。
「ラビッツもいずれ入隊する。リュークからの説得待ちだ」
って、言ってよかったのか!?
分からないぞ!
リュークが彼女を見つめて――、
「そうなのか、ラビッツ。昔みたいに学園でも仲よくやりたい。入ってくれないか」
「……分かった、入るわよ」
「どえぇぇぇぇ!?」
は!
大声をあげてしまった!
「あんた、入ってほしかったんでしょう。なんで驚いているのよ」
「え……いや……」
だってお前、さっき断ったじゃないか。度重なるリュークからの説得で入るはずなのに、いいのか!? まだ一回目だったし軽かったぞ?
「さすがですね! さっきのニコラさんの予言通り、リュークさんの言葉にあっという間でした。やはり王子様は全てお見通しなんですね!」
「あ、いや……」
やばいぞ。このままでは予言キャラになってしまう。調子に乗りすぎた。
リュークがポンっとラビッツの肩を軽く叩いた。
「ラビッツ、そういえばお前は昔から義理堅かったな。俺の合意を待ってたってことか。待たせて悪かったな」
「別に……そういうんじゃないけど……」
あーもう、照れてるじゃないか。人の婚約者にボディタッチするなよ。
顧問が満足そうに頷いた。
「よぉし、これで全員揃ったな。じゃ、あらためてルリルリよ、挨拶を頼む!」
お前、何者だよ……という視線を浴びても、自信満々にガッハッハと笑っているこの先生は、旧校舎の地縛霊みたいなものだ。学園内なら自由に歩けるし姿も見える。
実際に会ったらそういう意味で怖いかと思ったけど、怖くないな。不思議と存在が周囲に溶け込んでいる。
「は、はい。ラビッツさんもありがとうございます」
顧問がクラッカーを全員に渡している。俺も手渡された。どこから出したんだよと言いたいが、学園長に手配してもらったんだろう。
「えっと、学園内で起こる魔法に関するちょっとしたトラブルは、生徒の目だからこそ気づけることもある、と学園長先生に言われまして、『学園パトロール隊』を結成することにしました。名称は好きにしていいと言われたので、私が勝手に決めちゃいました」
昨年までは学園警備隊だったんだよな。
「頼りない隊長かもしれませんが、皆さんよろしくお願いします。本日より――、」
ルリアンがあらためて全員を見回した。
「ここにいるメンバー六人と顧問の先生で、学園パトロール隊、結成です!」
――パーン!
俺とリュークがすぐにクラッカーを鳴らすと、他のメンバーも続いてパンパンとカラフルなテープを勢いよく飛ばした。そのへんの机にひょいと置いて、全員で拍手をした。
「はっはぁ! 青春だなー! 若いっていいなー!」
顧問が一番はしゃいでるんじゃないか? おかしいな、ゲームではここまではしゃいではいなかった気がするんだが……。さすがに脇役の顧問の台詞までは、あまり覚えていない。
「じゃ、年食ったじじいの俺は退散するぜ。顧問カマーンっと呼んでくれればいつでも参上するからな。さらばだ!」
腕をあげて、シュバッとすごい速さで顧問がいなくなった。
「ルリルリ……あの人、本当に顧問なの」
ベル子が不安そうだ。
「は、はい。一応。学園長先生から話は聞いています」
「そう」
俺とラビッツは視線を交わすだけだ。何者か知っているだけにな……。
「学園長には私からも直接聞いてみるわ。それでは、ごきげんよう。私はもう行くわ」
オリヴィア……。
やっぱり一言謝っておきたいな。
「悪い、皆はここで仲を深めていてくれ。俺はちょっと、オリヴィア嬢に話がある」
俺を一瞥した彼女と、一緒に廊下へ出た。
「うむ、ドーナツ岩だな!」「そうね、どこからどう見てもドーナツ岩ね」「なんの異変もないな!」「もっと近づかないと分からないけど、さすがにもうトラみたいなのは現れないでしょう」 校舎の裏を抜けて小道を下っていくと、やがて視界が開ける。相変わらずそこには湖が広がり、遠目にもはっきりと分かるドーナツ型の岩と女神像が静かに佇んでいる。 水面は太陽の光を浴びてやわらかくきらめいている。湖畔には野の花が咲き、春の香りを含んだ風がやさしく髪を揺らす。「二人っきりだけど――、」 これもデートってことにしちゃ駄目かなと言おうとして、気づいた。 「まっ、待て待て待て!」 ラビッツの腕を引っ掴んで、傍らの木の陰へと連れ込む。「ふぇ!? いきなりなにっ。た、確かに二人きりだけどっ、わ、私にだって心の準備ってものがっ、あ、い、嫌ってわけじゃっ――」「リュークがいる」「はぁ!?」「もう一人は――、ラグナシアか!? 嘘だろう」「………………」「まさかゲームとはまったく違う相手が――って、いてっ! いててっ!」 なぜか耳を引っ張られた。「なんだ、どうした」「べっつにー」 ものすごく不機嫌顔だ。「あ、あのな? ほら、ドーナツ岩の左の方にある森の手前のベンチにな? リュークたちがいるんだよ」「見れば分かるわ」「あ、前にはなかった看板があるな。なんだろう」「ここから先にボトルはありませんとでも書いてあるんじゃない」「おお! なるほどな。さすが、ラビッツ。天才! 最高! 可愛い! 俺の嫁!」 ――パシーン! 扇子ではたかれた。 なぜ……。 あ! もしかして! これもデートにカウントしようと思ったのがバレたのか!?「そ、そうだよな。二人きりじゃないし、確かにこれはデートじゃないな。ちゃんと誘う。どこ行くかも決めて……どこにしようか」「はぁ。もうなんでもいいわよ。で、あの二人に気づかれたけど」「どぇぇ!?」 ほんとだ。 手を振られてしまった。「い、いいのか!? 邪魔していいのか!?」「いいと思うわよ。たぶんそんな関係じゃないし」「分かるのか!?」「なんとなく雰囲気で分かるでしょう」 全然分からないが!「雰囲気……?」「ニコラ、鈍いわよね」「分かる方がおかしくないか?」「どう見ても、友達未満の距離でしょう」 距離……! そ
中央広場に設けられたテントは、白い布地に金の縁取りが施されている。さすがはこの学園が用意したものだ。たかがテントなのに、シャレオツである。 ……王家からの寄付金もあるしな。 ラビッツと並んで歩きながらテントに向かっていくと、会長と副会長の姿が見えた。二人とも椅子に腰かけ、机の上にはボトルの記録用紙や確認リストが並んでいる。 「……あの二人、仲よさそうだな」 ボトルも並んでいたしな。 ゲームでは気にしていなかったものの、生徒会長が男性で副生徒会長は女性、両者とも真面目そうな空気をまとっている。「そうね」 俺たちが近づくと、生徒会長がすぐにこちらに視線を向けて立ち上がった。「ニコラ様、何かトラブルでもありました?」 俺たちが一番乗りだったらしい。回収したボトルはまだ一本もないようだ。「いいや。ボトルの持ち主が生徒会長のだったんだよ。ノクス君、お疲れ様。大変そうだね」「あ、僕のでしたか。ありがとうございます。大変ではないです。やり甲斐がありますね。それにしても、偶然にしてはすごいですね。実は僕のボトルもニコラ様のだったんですよ」「……それは奇遇だね」 やっぱりか。ゲームの強制力には抗えなかったらしい。おそらく開始早々、すぐ近くにあったボトルを選んだのだろう。なぜ俺のは、運営サイドへと飛んでいったんだ。 ちなみにヒントは「王子」とだけ書いた。「私のボトルは、副生徒会長のでした」 ラビッツも俺と同様に、中の宝物を見せてボトルだけを返却した。彼らがボトルに触れると、わずかに残っていた淡い光も消える。そうしてまた、このボトルたちは来年のフェスを待つのだろう。「あら、なんて偶然」 副生徒会長がにこにこして自分が選んだらしいボトルを見せた。真面目そうに見えたものの、笑うと八重歯が見えて人懐っこい印象に変わる。 ゲームでは生徒会長の横に佇んでいるだけだったからな……。「私もラビッツ様のボトルだったんですよ」「えっ」「少し待っていてくださいね」 記録用紙にサラサラと記入していく。「はい、こちらですよね」 生徒会長と副生徒会長からそれぞれボトルを渡されたので、スッと触れた。淡い光が同様に消える。「宝物、ありがとうございますね。フェルトの小さな熊さん、可愛らしくてとても好きです」 可愛いな!? 俺も欲しいぞ!「気に入っていただけた
ラビッツと共に校舎の裏側にまわってみる。人気のないところの方が、生徒会長のボトルはない気がしたからだ。せっかくならゲームから外れてみたい。 ボトルがどこに着地するかは、中身を入れた学生の意識も多少は反映する。誰にも見つけてほしくないと望む者のボトルは植え込みの中にある、といった具合だ。「お。二つあるけどどうする?」 人通りの少ないそこで、植え込みの間からチラチラと虹色の光が見えた。「いいじゃない、それにしましょう」 ラビッツが片方のボトルを拾う。指先が触れた瞬間、ボトルの虹色の光は静かに消えた。淡い光だけをわずかにまとう。俺も片方を拾い上げ、中を確認する。 丁寧にたたまれた白いハンカチ一枚とヒントのメモ用紙。『生徒会長』 その文字を見てガガーンと崩れ落ちた。「やっぱり生徒会長じゃないか……。なんでこんなところにボトルがあるんだよ。生徒会長なんて目立つことやってんのにさー。お、ハンカチにはボトルの刺繍がしてあるな。あー、ヘタでごめんってメモに書いてある。なるほど、自信がなかったからボトルがここに来たのか……」 中に入れる宝物は、さすがに自由にすると金額が高くなる。購買でもこの時期には手作りキットがたくさん販売されていて、いくらまでと金額の上限も決まっている。「私のはポストカードね。素敵な絵が描いてあるわ。ドーナツ岩があるから学園の湖ね」「へぇ、綺麗だな」「で、これ見て」「おっ」 ヒントの単語は『副生徒会長』だ。「仲いいな」「二つ並んでたものね」 ゲームでは、リュークのボトルの相手はルートに入っている女の子になる。それ以外のヒロインが誰のボトルを手に取ったのかは分からなかった。「なんにせよ、リュークとラビッツのルートはなくなったな。よかった……本当によかった」「え。まだ可能性があると思ってたの?」「だって怖いじゃんかよ。リュークはほら、カッコいいしさ」「ん……そうね。カッコいい、わよね。でも、ほら、あんただって、その、あの、カ、カ、カ、ガ、ガンバッテるじゃない? ほら、王子のお仕事とか。えっと、鍛えてもいるみたい、だし?」 なんでそんなにシドロモドロなんだ? 日頃ツンツンしているから、誰かをフォローするのも苦手なのかもしれない。「ありがとな。確かに……前世よりも頑張ってる。そうすることでしか見えない景色もあるんだなって
思念品はリュークとルリアンに任せ、それ以外には特に何事もなく、五月下旬となった。 ルリアンに聞いて全ての思念を把握しているリュークから、ポチの部屋に俺は近づかない方がいいと言われたことが、少し気になってはいる。でも、実際には何も起こっていないわけだし、深く考えないことにした。女性陣は色々と持ち込んでメルヘンな部屋になっているらしい。 絶対に何か起こる気がするとトラが言っていたし、嵐の前の静けさのような気もするが……。 パトロール隊へのささいな要望や事件はぽつぽつあった。魔法理論の講義を応用した生徒同士の悪戯で影がおかしなダンスをするようになり生徒が駆け込んできたり、教科書を枕にしたら首が痛いと泣きついてくる生徒までいた。そっちは魔法関係ないだろうと言いたいが、ルリアンが治癒魔法で回復させていた。 いずれもその日のうちに解決だ。主に、先生に言うのが恥ずかしい話が持ち込まれる。ほとんどルリアン一人で解決してしまうのが、さすがというべきか……。 生徒のおふざけには相変わらずペンデュラムが反応し、全員で出動している。 内容はいかにも学生だなぁと微笑ましい。もしかすると、前世の俺にニコラの記憶がプラスされて、俺の精神年齢はそこそこ上に達しているのかもしれない。「――と思うんだけど、ラビッツ」「やらしい発言が多々見られるし、どうかしらね」「仕方ないだろう。女の子と付き合ったことは一度もないんだぞ!?」「……そう、可哀想ね」 なんで睨むんだ! 「もしかしてラビッツには……恋人がいたとか?」「いないわよ」「やったー!!!」「両手をあげて喜んでいる時点で、精神年齢は幼いわね」「嬉しいんだよ!」 ということは、もしかして俺が初恋人とか初キスとか初デートの相手になるかもしれないのか!?「やったー!!!」「しつこいってば」「ラビッツ! 俺とキスしてください!」 ――スパーン!「しないわよ!」 また扇子が飛んできた。 「なんで……」 最近はいい雰囲気になることもあるじゃないか。ツンデレは好きだけど、好きだけど……!「〜〜〜っ。い、言ったじゃない。ムードを考えなさいって。ムードづくりよ。た、例えば、その、ほら、い、一応私たちも婚約者同士なわけだし? あるでしょ。必要な、ね。えっと。まずは舞台というか、デ、デ……だから、ほら、あの……」
「これは……」 リュークが自ら持ってきた箱を置いて、ゴクリと喉を鳴らす。「ヤバイ予感はしていたが……」「運んでくれてありがとな、お疲れ様」 労いを込めてガシッとリュークの肩に手を添えた。「疲れるのは、これからだろう」「うぅぅ。怖すぎるな……」 パトロール隊への要望ボックスが置いてある机の下に、なぜか箱が置いてあった。要望書を確認して、リュークが旧校舎へ運んでくれた。要望書に書いてあった内容は――、『思念品が家に大量にあります。亡くなった祖父がおかしなものを集めるのが趣味だったのですが、量が多く処分に困っているので、なんとかしてください。こちらは一部です。浄聖師に断られた品もあります』 ここは、意思の力で魔法が発動する世界。思念が残ることもあり、呪われのなんとかみたいなのも前世より多いし眉唾ものでもない。前世ならポルターガイストかと思われる現象も、ここでは「そんなこともあるよね」で終わってしまう。 しかし、これは量が多すぎるし集まりすぎている。この箱からおかしな気配がグワングワンと漂っている。「……私は、何もできないと思う」 ベル子はそうだよな。浄化は特殊魔法だ。むしろ使えない人のが多い。日本でいうところのお清めの塩くらいの浄化はできても、思念を祓うことは難しい。「埋めたくなるわね」「地上が見つからないくらいに、地中深く埋めちゃうにゃん〜」「うちの領地の浄聖師に分配してもよろしくてよ」「い、いやいや、オリヴィア嬢の気持ちはありがたいが、最初から諦めるのもな」 こういったものは教会の浄聖師に任せるのが一般的ではあるものの、それなりの寄付金は必要だ。ゴミとして処理しようにも思念だけで形を保っているので処分できず、持ち主の元へそのうち戻ってしまう。それに……。「浄聖師さんに断られる理由が分かりました」 思念を感じ取ることができるのは、この中でルリアンだけだ。「おおまかにしか分かりませんが、リストにしますね」 皆でルリアンの書く内容を見つめる。「踊るくま人形」 夜中に踊り出すぬいぐるみ。ダンスが好きだった少女の「もっと踊りたかった」という思念が宿り夜中に踊る。両親の離婚により習い事の継続が不可能になったようだ。「夢を映す鏡」 触ると夜に見た夢が映る。「さっき見た夢を思い出したい」という思念が宿る。誰も触らない場合、夜中0時に
「お二人とも、同時でしたねっ!」 今日は交流会の翌日、ベル子ちゃんとラビちゃんが部屋へ遊びに来てくれました。ラビさんのことはラビちゃんと呼んではいるものの……高貴なお方の空気を感じて、心の中ではたまにラビさんと呼んでしまうこともあります。「……お邪魔します」「邪魔するわね」「はい、どうぞ中へお入りください。ちょうど紅茶を入れたところなんです」「いい香りね」「はい、お気に入りのローズティーです。お口に合うかは分かりませんが……」「ありがとう」 日差しがやわらかく差し込む部屋の中で、ティーテーブルには三つのカップと、手作りのクッキーを並べた小さなガラス皿。 うん! ちゃんと女子会してますよね!「このテーブルクロスも可愛いわね。さすがルリルリ」 「えへへ。お店で見つけて一目惚れしちゃって」「ルリルリの部屋……全部、可愛い」「ほんとよね」 今までは学校が終わるとすぐに家に帰らなければならず、家庭教師だったり習い事だったりと大忙しでした。 女子会なるものが流行っていることは知っていましたが、これが初めてです! 皆で「いただきます」とクッキーを食べて美味しいねと笑い合ったりラビちゃんが「私の釘が打てそうなクッキーとは大違いね」と少し落ち込んでいるのを慰めたりと時間が過ぎていきます。「それで本題。昨日はどうなったの」 ベル子ちゃんがいきなり切り込みましたよ!?「それが……全然ダメだったの」 ラビちゃんが顔を覆って落ち込んでいます。たまに、こうなっちゃうんですよね。……ニコラさんの前では強がっていますが。「進展なし?」 ベル子ちゃん、容赦なしです!「可愛げがなさすぎて自分にガッカリする……。で、でもね、ニコラだって悪いのよ!」「うん、分かる。ニコラさん、鈍そうな気がする」 だからベル子ちゃーん!「た、確かに鈍いけど! でもほら、ああ見えてえっと……か、顔とか可愛い系でしょ?」 フォローに入りましたね!「はい、可愛い系だと思います」 王子様の見た目に対して、この返答でよかったんでしょうか。「それに、たまには……か、かっこいいところもあるわよね」「はい、ニコラさんの采配にすごいなと思ったことも何度もあります」「そうよね、頼りがいがあるところだってあるし、たまには私だってドキドキしたり……おかしくないわよね?」「はい、